CampⅦ

1920s Mt.Everest Expedition

Undeads of Everest

 エヴェレストは幽霊譚やゾンビものの舞台として素晴らしい場所ではないかな~とか、サンディとマロリーをNPCとしたクトゥルフ神話系フィクションの雑記。

 

 人体は高い場所へ登ると様々な不調を起こすが、ゆっくり登ったり、高いところへ登って低いところで眠ることを繰り返したりすることで、ある程度高度に身体を慣らすことが出来る。高山病を防ぐため、高所順応が必要というわけで。

 しかしその適応にも限界はあり、標高約8000mを超えるともう身体は弱るばかりとなる。この適応限界を超えた世界をデスゾーンと呼び、現代のエヴェレスト山行では基本的にデスゾーンでの長時間滞在は避けることになる。

 このデスゾーン付近では、遭難や行き倒れが発生しても救助が非常に困難で、多くの遺体が取り残されたままになっている。色とりどりのゴアテックスを身に着けた遺体は寒冷と乾燥で屍蝋・ミイラ化し、腐敗することなく残り続けている。虹の谷なんてロマンチックな愛称のおぞましい場所と紹介されることも多い。

 ……というようなことは、ちょっと検索すればすぐに出てくる。

 平気で遺体の写真を載せているサイトも多いので注意。死者を晒すようで嫌なものだと思うけど、残念ながらあのジョージ・マロリーの遺体はその中でも最も有名で、エヴェレストの歴史に触れるなら恐らく避けられないほど広く出回ってしまっている。個人的にあの写真は怖いものではなく、尊敬と浪漫を感じるけれど…というような話はまた別の機会にしよう。

 

  本題、エヴェレストは幽霊譚やゾンビものの舞台として素晴らしい世界ではないか? という話。

 1999年にマロリーの遺体を見つけた遠征隊が出版した本のタイトルが "Ghosts of Everest"、これは『そして謎は残った:伝説の登山家マロリー発見記』のタイトルで邦訳も出ている。 

そして謎は残った―伝説の登山家マロリー発見記

そして謎は残った―伝説の登山家マロリー発見記

  • 発売日: 1999/12/01
  • メディア: 単行本
 

避けられない、というのはマロリーたちを調べるにあたってマストと言うべきであろうこの本でいきなり表紙に使われているからでもある。原書の表紙はマロリーとサンディが撮られた最後の写真なんだけどね。

 ただこの本は遠征の記録がメインであって、怪談話をするものではない。

 

 エヴェレストの幽霊譚や怪談についてはちょくちょく調べているのだけど、案外まとまった話が少ない……と思う。 当初はエヴェレスト七不思議でもあるかと思っていた。

 多分1番有名なのはイエティ。これはマロリーの参加していた1922年遠征も関係しているし、正体がヒグマだろうと言われている背景にも色々あるので、いずれ別記事で。

 幽霊譚としては、いないはずの人を見た・声を聞いたという話がよくあるもの。これは酸欠・疲労・ストレスなどが原因となって幻覚や幻聴を引き起こした説が強いかな? それからこの山で命を落とした登山者と思しき黒い影たちが飢えを訴えながら手を伸ばしてきたという経験談もある。

 素敵なのは1933年の遠征で、フランク・スマイスが不調の相棒と分かれてひとりで頂上を目指していた時、もう一人の誰かが傍にいる気配がしたというエピソード。この「誰か」は強く友好的で、同行することで気分を害することはないどころか、おかげでちっとも寂しい思いをせずに済んだという。そしてミントケーキを食べる時、スマイスはケーキをふたつに割って、半分をその「誰か」に渡そうと振り返りもしたそうだ。(でもスマイスは幽霊とは言っていない筈なので、これは怪奇譚としておくべきかな。)

 でも何より大好きなのは、登頂を目指す大詰めの段階で登山者を励ましてくれる幽霊の話! そしてこの幽霊の正体は、サンディ・アーヴィンという説もあるらしい。未だにソースが実質不明だけど……。

 他にも色々ある幽霊譚・怪奇譚のまとめは長くなるので別記事で。不思議なくらいマロリーの幽霊の話って聞かないなあ……有名人の幽霊の噂ってつきものだと思うのだけど。

campvii.hatenablog.com

  そんなわけで実体のない話はあるし、イエティも超大御所UMAなのだけど、未だにゾンビものが見つからない。言い方が明け透けで申し訳ないけど、墓地でゾンビが生まれるのにエヴェレストでゾンビが生まれない理由がよく分からない。人間は酸欠に喘ぎ、寝不足と疲労に悩まされながら重い装備を背負って歩く場所で、呼吸の必要がないゾンビが襲ってきたら怖いじゃん……アンフェアすぎるかな。 

オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁(吹替版)

オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁(吹替版)

  • 発売日: 2020/04/27
  • メディア: Prime Video
 

先鋭登山装備での戦闘を見られたのが良かった一本。これならゾンビとでも戦えそうじゃん!

個人的にマロリー(の遺体やその状況)へのロマンチックなオマージュシーンもあって良かったです。でも是非にとは勧められない……好きなシーンはいくつかあるし、監督・脚本がやりたかったこともはっきり分かりやすい作品だと思うので、自分は楽しめました。狂気山脈既プレイ者には1回レンタルしてもいいかも?くらいの勧め方かな……。

 

 ゾンビものが見たいという欲求より先に自分でゾンビもののフィクションを作り始めており……というのも、山に関心を持つようになったきっかけが友人に回してもらったクトゥルフ神話TRPGシナリオ「狂気山脈」のセッションがとんでもなく面白かったからであって。

 セッション終了後、KPがセッション前に読んだと紹介してくれたのが『ヒマラヤ 生と死の物語』だった。

ヒマラヤ 生と死の物語

ヒマラヤ 生と死の物語

 

 「狂気山脈」で使った自分の探索者はイギリス人登山家という設定だったので、 セッション直前に「イギリス人 登山家」で調べて最初に出てきたマロリーの写真を立ち絵としていた。

 この本の中でマロリーとサンディの事故についても紹介されており、その項目を読みながら「この人たちをキーにしたCoCシナリオが作れるのでは?」と思ったのが、1924年遠征を触り始めるスタート地点だった。

 この本を読んだ時点では、「"そこに山があるから"と言った天才登山家のジョージ・マロリーが、アンドルー・アーヴィンという機械とスポーツに優れた学生と一緒に初登頂目指して登り行方不明になった。マロリーの遺体は見つかったが、アーヴィンは今でも行方不明のままである。」くらいの認識だった。

 その情報だけで書き始めて、調べ物と同時進行で一気に出来上がったシナリオの背景がこれ。

 

 1924年6月8日、ジョージ・マロリーとサンディ・アーヴィンはエヴェレスト初登頂を果たしたが、折悪く南西壁でミ=ゴたちによって行われていたガタノソア崇拝の儀式を目撃してしまう。サンディはガタノソアの神像を見てしまったジョージを背負って逃げようとするが、ファーストステップを下りる際に落ちて後頭部と頬に致命傷を負い、ジョージの脳もミ=ゴたちに攫われてしまった。

 そこへ現れたのがニャルラトホテプ。死を待つばかりだったサンディを唆し、彼がこの先もアンデッドとして行動できるようにしてやった。サンディはミ=ゴたちから相棒を取り戻そうと何度も試みるが、道具も経験も不足している上に頭数で分が悪すぎるためなかなか上手くいかない。そうこうしている内にこの山にはすっかり人が増えてしまい、目立つことが出来ないシーズン中は正体を隠しポーターガイドのような素振りで登山者を助け、オフシーズンに残置物などから補給をして襲撃を掛けるようになっていた。

 目的を果たせないまま時は現代。精神的な摩耗による限界が近いこともあり、今まで生者を巻き込むことを忌避していたサンディはとうとう助けを求めることを考える。命を捨てさせることになるかもしれない助けを求めることを許すために、まずは一度、落としかけている命を助けよう。そんな条件を課した彼が目をつけたのは、突然のホワイトアウトで雪庇の上にビバークしてしまった探索者一行だった。

 "サンディ" を名乗る/金髪で無機的なほど白い肌をした/とても親切で頼もしくて陽気で、驚 く ほ ど 体力があり/絶対に顔を見せようとせず、飲食も共にせず、本名も明かさない/マロリーを思わせる……が少々不自然なクライミングをこなす青年。単独登頂を目指して来たものの話し相手がいない暇に耐えられないので仲間に入れてほしいという彼は、たしかに探索者達にとって命の恩人だが、あまりにも怪しく隠し事だらけだ。

 このNPCを疑ったり信じたりしながら共に登り、とある事故から正体を明かしたサンディの頼みを引き受けるならば、共に南西壁の隠れたミ=ゴの遺跡へ乗り込むこととなる。そこには本当にあのジョージ・マロリーがいて……。

 

 という感じの筋書きで進み、NPCたちと神話生物の遺跡を探索。二人がファイナルアタックに持って行ったカメラやマロリーが頂上に置いてくると約束していた妻の写真を見つけ、全員で夜明けの頂に立って、全てを終わらせ笑ってさよならが出来たらトゥルーエンド。エンディング分岐の話とかは長くなるしシナリオについては別記事で残しておこう、そのうち。恥ずかしいなあこれ!

 このシナリオやリプレイ想定の小説は、Twitterの公開アカウントで主に史実の話をしている裏で2年以上ちまちま取り組み続けていて、アウトプットの主体は実質この軸の話になっている。

 人物・遠征のことやその後の調査、エヴェレスト登攀史の史実を絡めながらエピソードや人物像を作っていく、現実と地続きになった部分の多いフィクションが好きで……最初こそ、100年近くも遺体が見つかっていない、登頂を果たしたか謎という状況のロマンでシナリオフックとしての魅力に惹かれたけど、調べていくうちにこのサンディ・アーヴィンという人に引き込まれて、いつの間にか洋書を積んでいましたとさ。邦訳資料、2024年にせめて Fearless on Everest だけでも出てほしいところ。

 そんなこんなで親切なエヴェレストの幽霊ことアンデッド「サンディ」の話をずっと考え続けているし、クトゥルフ神話関係ない話でも怪談風味の短篇は書いているので自分視点ではアンデッドものが無いわけではないんだけど、他人の創作でも見たいな~と思いながら今に至る。

 

 クトゥルフ神話を知らない人には訳の分からない話ばかり長々喋ってしまった……。

 クトゥルフ神話ものというわけではないけど、この "The Mountain's Call" という小説は通ずる雰囲気があってとても良かった。しかも主人公がサンディなんですよね~珍しい!

www.flipsnack.com

 ファイナルアタックの登攀中に深いクレバスへ落ちてしまい、マロリーとはぐれたサンディは独り、呪いのような山の声を聞きながらも出口を求めて不穏な洞窟を彷徨うが……。

 これは訳を載せられないけどきっと近いうちにあらすじや感想をまとめよう。大好きな小説のひとつ。この短篇1本が存在するおかげでどれほど満たされていることか。

 

The Abominable: A Novel (English Edition)

The Abominable: A Novel (English Edition)

 

  ホラー小説としてはこちらの "Abominable" という小説がマロリーとアーヴィンの遭難にも関わるストーリーのようで読んでみたいけど、厚さに及び腰になっているところ。いつか……と打っているところで買うだけ買っとくか! という気になったので今電子版を購入した。

 

 果たして洋書積読が片付く日は来るのだろうか……存在する、まだ知らないこと・読めるものがあるというだけで嬉しいので、積読タワーも全くの無駄というわけではないのだけどね。エヴェレストの怪奇幻想小説が自分のクラウド以外にも沢山存在していますように!

 

 

 

 

   別記事で分けてまとめておく予定だけどもうちょっとだけCoC軸の話……

f:id:CampVII:20210324143408j:plain

シナリオ執筆中、NPCサンディの外見イメージを1回描き出しておきたくて描いた落書き。(2018.10.17?)

 初めて描いたのはアナログのメモだったけど、これはその次に描いた本当に初期のもの。

 アーヴィンのスペルをIrvineではなくArvinかArvineだと思い込んでいて…恥ずかしいやつ! 飛行帽もおかしいし、街中歩きのパーカーみたいなウィンドブレーカーだしで結構描き方は変わったけれど、基本的なデザインはこの頃から変わらない。

 キャラクターとしての落とし込みのメインは、Wikipediaにも載っている有名な正面ポートレートから受けた印象のデフォルメ。タレ目がちな印象を受けたのと、色素が薄くて見た写真の画質もいまひとつだったせいで短めの眉に見えたのだった。髪型はオールバック苦手だから…という逃げから、右目の上で分けて撫でつけている写真もあるからとハーフバック+流しに近い崩し方に…。「金髪のアンディだからサンディ」というわけで髪色で迷うことは無かったけど、瞳の色はもっと後になるまで証言が見つからずにいて、この絵では緑っぽい色を置いている。18年12月までには暫定として明るい青を置くようになっていて、結果的にこれで正解だった。
 史実の文脈でも同じデザインを使っているけど、アンデッドのNPCとしてはマロリーの遺体のイメージを混ぜた無機的な真っ白い肌、サンディと思しき遺体の目撃情報による「左頬の傷」(当時はこれを滑落時に岩で削いだ怪我だと思っていたのでNPCもそういう設定になっているけど、目撃者によればゴラクに喰われた孔である)あたりの、後年の話を混ぜたメタいデザインにもなっている。あと背景事情的に瞳の色がマロリーと同じなので、彼の瞳が紫がかった青だと分かるまで狼の目…アンバーで塗っていた。

 ウィンドブレーカーが青なのは、有名な集合写真の彩色でマフラーが水色に塗られているから。でも装備の色味が"貰い物"ばかりなのでてんでばらばらで、歩く虹の谷めいた風貌という設定。

f:id:CampVII:20210324143430j:plain

これも超初期に描いた絵で不慣れさが強いけど、見返すと初心に帰れるのもあって結構お気に入り。

 最初はシナリオになる! とかifをつついてみよう! とかそういう好奇心だったけど、調べていくうちにサンディ・アーヴィンに惹き込まれてしまったし、NPCサンディもすごく愛着のあるキャラクターになっているので……大事だからこそ外に出さずにおきたかった部分もあるけど、検索避けが出来るなら、少しだけこういうストーリーや人物が自分の中にあったよということを残しておきたいような……そんな気持ちになったのかもしれない。しかしどこから出したものか。

 頭の中にある素敵で楽しいものをアウトプットするのが下手で、自分しか見ないと思いながらももどかしい2年間ちょいだった。何年も創作から遠ざかっていたし、元々沢山書いたり描いたりするわけでもなかったので、これだけ夢中になれるものと出逢えて幸せなことです。