CampⅦ

1920s Mt.Everest Expedition

EverRestについて① - 裏方思考のバックヤード

 イギリスで暮らすようになったらゆかりの地についてなどブログに書き留めておこうと決めていたのに、バタバタしているうちに渡英から一年経とうとしている……。

 書こうという気持ちはあるので、回想みたいになってしまいますが色々写真と共に残しておきたいと思っています。サンディの母校に勤めたり、彼らの故郷を訪れたり、アーカイブアルパインクラブで遺品や写真を手にする機会に恵まれたり、古写真や直筆のエフェメラをしばらく手元に置く幸運にあずかったりと、愉快に暮らしています。

 

 そんなこんなでこちらでやるべきことが沢山あるのですが、冬~春にかけて同人誌を作りました。

 "エヴェレストの幽霊" をテーマとした同人誌『EverRest』が出ます!

 ショップページはこちら。サミットバーサリー記念として出したいので6月8日からの頒布です。おまけも同日発売です。PDF版本編は無償なので、ご興味がありましたらお気軽に手に取っていただければと思います。Twitterでも告知を出していますが、この通り300p近いボリューミーなファイルです。

 おおまかに小説6割・実話2割・解説他2割といったページ分配です。この目次はマロリー・サンディ・ビーサム・ハザードが参加した遠征出港記念ディナーのメニュー風に寄せたかったのですが、フォントや文量の違いなどで難しく断念しました。レイアウトはちょっぴり近くなくもない。

 山岳モノを書けるタイプではなくテーマもテーマなので、小説については「マロリー・アーヴィンの物語をフックとして怪奇幻想ジャンルの空気感をエヴェレストという舞台に持ってきた」くらいに思っておくとギャップが小さめになると思います。まるで珍書の紹介文のようだ。

 

 基本的に同人誌を作ることがないので、折角だしブログでも少しこの本について喋っておきたくて記事を書くことにしました。本の中ではなるべくフラットな態度を心掛けたかったので、こちらではもう少し感情的だったり個人的だったりする部分を書き留めておくつもりです。

 頒布開始以降に表紙(友人が描いてくれました、ありがとう!)や収録作についても書きたいのですが、今回はとりあえず頒布形態などについて。

 

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 EverRest、同人誌としてはページ数がかなり多い本になりました。A6なので嵩みやすいとはいえ、普通に市販の文庫本レベルありますね。実話を収録するための資料収集で相応に出費を重ねていることもあり、正直に言えば少しでもお代をいただけると助かる状況ではあるのですが、それでも基本無料とした理由がいくつかあるのできちんと書いておこうと思います。

 

 まず通常なら金銭が発生して然るべきレベルでページ数の多い理由のひとつが、収録作「ミッシング・ボディAの肖像」が連作形式の一行小説だからです。

 一行小説を軽んじているわけではなく、自分でも好きな作品で面白味があると思うからこそ収録している(書籍版もウン十万の費用回収見込みがないまま印刷するので無為にページ数増やす余裕なんぞない)のですが、自認としては自分が短歌や詩など短文を味わうスタイルに向いておらず、この白い紙面に堂々と金銭的価値を付与するのが怖いというのが率直なところです。といって行を詰めたり、収録を見送るのも嫌だったので、公開するものは無料頒布にしておけば気兼ねなく配置できるという考えでした。

 一行小説の、要素を提示しつつ余白が大きいため解釈やイメージの幅が広がるところがとても好きでして。これは出来上がった時に友人たち(私のツイートを見ているのである程度遠征について知っている)に読んでもらったところ、自分が想定していた情景とはかなり違う光景がイメージされていてとても面白かったです。その辺りも含めてまた後日の記事で書ければ。

 

 続いて実話集パート(「GhostNote」)に収録している翻訳の問題。

 邦訳がない文献をいくつか見つけることが出来たので、引用の範疇内で翻訳して載せたりかいつまんで紹介したりしているのですが、訳文の正確性を担保できるだけの自信がありません。読み物としては耐えられる範囲だと思いますが、参考文献みたいな使われ方をすると誰も幸せになれない可能性があるので、提示している典拠を直接当たってほしいなあと。

 基本的に大きく間違っていることは無いと思って公開しますが、Excelsiorという書籍に載っていたマロリーの霊との対話だとする文章は19~20世紀のオカルト関係者や事情への知識がないとちょっと訳すのが難しく……調べつつ頑張ったのですが、その場その場で調べながらの付け焼き刃なので、言葉そのものの取り違いとはまた別の意味でもズレた訳を取っているかもしれません。ごめんね。

 そんなわけで、実話パートを目当てに手に取ってくれる人がいたらこんな状態で金額設定するのはちょっと申し訳ないなーという気持ちがあります。

 

 それから愛着の問題。

 これはかな~り書くのが厭な思考なのですが、「お金を払って読んだのに面白くなかった」と思われることを想像するのが非常に嫌です。

 自分の書いたものにはかなり愛着があり、読み返す度に面白~ッ!! と思っているのですが、同時にこれらの話がこんなにいいと思えるのは、登場人物のモデルや舞台への思い入れ、物語の趣味嗜好、コンテクストなんかを共有できている自分自身だけじゃないかという気持ちもあり。

 普通に本を買って読んだけど面白くなかった・合わなかったなんてことはざらにあるし、当たり前に起こることで別段気にしなくていいと思っているのですが、自分の書いたものにそれを向けられうると思うとかなり嫌で……。それはそれとして読んだけどおもんなかったという人が出てくる可能性はあるのですが、時間は取ってしまったかもしれないけれどお金は取っていないので大目に見てください。

 

 と、ここまで結構ネガティブなことを並べてしまいましたが、一応それなりにポジティブな理由もあります。

 エヴェレスト、マロリー・アーヴィンや20年代遠征、ちょっと変わった幽霊話……どんな角度からにせよ、このテーマに関わる事柄に少しでも関心のある人にできるだけハードル低く手に取っていただきたく思います。

 まあどれだけそんな関心持っている人がいるんだという気はするのですけれども、日本でも朝里樹先生によって「エベレストの幽霊」がサンディとしてのイメージ強く紹介されたりなんかもしたわけで。関心を持った誰かが実話集なんかにちょっと目を通して、一本、一枚でも作ってくれたとしたら、印刷費全回収以上に嬉しく思うわけです。可能性が0ではない以上、細い糸でもなるべく太めに残しておきたいなあと思っていたりします。

 

 友人が 人は少しでもお金を出したものの方が大事にしやすいという話をしてくれたこともあり、どの理由もそれだけだったらお金受け取ることにしてもよくない? という気持ちになるのですが、ちょっと数が多すぎて……! 精神衛生のためにも基本無料頒布とすることにしました。

 版権の二次創作だと極端に安価に設定した同人誌が出ることによるトラブルも起きるなんて話を聞くけれど、今のところマロリー・アーヴィン関係でこういうオタク的活動している人ってほとんど見ていないし、同人誌に至っては観測していないし……。もし基本無料としたことによるトラブルが発生した場合は価格改定として金額を設定することになるかもしれませんが、大丈夫だろうと思っています。

 「お前が300p近くも無料頒布しているせいでテーマが近い本を出したいのに価格設定が難しくなる」というご意見があったら大喜びで対応するのでよろしくお願いします。

 

 そんな感じで防御姿勢強めの無料頒布決定ですが、もし読んでみて面白かったり、少しお金を出してもいいかなと思ってくださったりした方は、こちらから入れてくださるととても励みになります。

 本体の購入履歴などからブースト形式で入れられるように出来たらいいのですが、無理らしいのでこのような形を取りました。自分で値をつけるのは怖いけれど、読んだ人が出していいよと思ってくださるならそれは素直に嬉しいです。

 お金を出してくださる方に何もないのも気が引けたので、リンク先を見ての通り書籍版にのみ収録予定だったエッセイ(?)がついてきます。「エヴェレストの幽霊」とは何なのか、イギリスに来てから触れた遺品や訪れたゆかりの場所、調査を助けてくださった人のことなどをつらつら書いています。

 ただこれのためにわざわざお金を出すような内容ではないと思います。PDF版本体から抜いたのは分割商法的なものではなく単純にこっぱずかしかったからです。身内以外の前に出す予定で書いていたものではなく……ただ他に何か出せるかと言ったら特になくて……。そういうものがお礼になるかは分かりませんが、一応これで書籍版とほぼ完全に同じものが読めるのだと思っていただければ。

 

 ついでに書籍版について。

 書籍版は自分と身内用に印刷所さんの最低部数だけ刷るのですが、

  • 表紙に特殊紙を使い、特殊紙に特殊加工を施したカバーを巻いた300p本なので、無利益で価格設定しても非常に単価が高い(原価¥15,000くらい)。
  • イギリスから日本への送料が高額になりがち。ロイヤルメールは安いけど紛失・遅延などトラブルが多く、金銭的取引をする品を預けるには不安。
  • そもそもテーマがニッチで自分も影響力があるタイプではないので、お金を払って書籍版を欲しい人がいるか分からず、管理費のかかるBOOTH倉庫に預けるのも気が進まない。

 といったような理由から、少なくとも当面のあいだは基本的に書籍版の頒布はなしということにします。100円でほぼ全く同じ内容が読めるようにしているしね。

 1回コミティアに出てみたいな~という気持ちがうっすらあるので、もしかすると来年夏の帰国後にティアで並べたり、自宅発送の形で通販するかもしれませんが未定です。

 流石に原価が高すぎるのでほどほどの値で並べるはずだけど、どのくらいが妥当なんだろうなあ。同人に詳しい人の意見も聞いて決めようかなとか……そんな状態なのでね……!

 ただ万が一書籍版が強く欲しいという方がいらしたら出来るだけ対応したいとも思うので、もしもそういう方がいらっしゃいましたらTwitterかBOOTHメッセージでご相談ください。

 表紙にはシェルルックツインスノーという用紙を使用します。ちょっと粒立ったラメ感があって印刷色の明るい部分がきらつくそうなので、雪面などがクラストしている時のきらきら感が出ていたらいいなあ。名前も素敵。

 カバーにはパチカという紙を使用します。熱を加えながら型押しすることで透けるようになる変わった紙で、タイトルの一部が透けるようにデザインしています。このカバーがむちゃくちゃ高かったので綺麗に出来ているといいな~。

 デザイン意図や仕上がったものについてはまた後日!

 

 あとは……個人的な主義として自分が人に自分の作ったものを押しつけたり感想を要求したりする類の行為に出るのに気が進まないだけで、興味を持って手に取ってくださったり、感想があるからと送ってくださったりしたらそれはすごく嬉しいです。もしかすると感想が地雷なタイプに見えるかなと思ったので念のため。

 ご意見などがあった場合に備えて匿名でメッセージ送れる窓口を作るべきかもしれませんが、管理する先が増えて取り零すのが嫌なのですみません。Twitterでしたら捨て垢からフォロー&DMとかでも大丈夫です。誠実にやれているだろうか。

 

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 全体的にちょっとネガティブなことを多めに書いてしまいましたが、防衛線張る癖が抜けないだけで、自分としてはとてもいい本になっていると思います。 エヴェレストの幽霊だいすき!! もう何年も欲しかったテーマの一冊なので、手前味噌ながら実現できてハッピーハッピー。

 収録作はどれも気に入っていてそれぞれに面白いポイントがあるし、実話集も日本語では読めないものを集めたという点で意義があると思うしね。そして表紙……については改めて書きますが、見た目に華やかなだけではなく本当に細かに描いていただいていて……! ほんとうにありがたいことです。

 収録している小説は全部「プロローグから派生し得る違う世界線」として扱っているので、フィクションパートをお読みくださる方はどれかひとつ、あるいはひとりでも気に入っていただける「幽霊」のお話があればとても嬉しいです。

 そしてもちろん実話についても! 交霊術はともかく山における話については心理学や脳科学の面からある程度考察されたりもしているのですが、実話系の幽霊話や奇妙な経験談が好きな人には面白いと思います。私は調べていてとても楽しかったです。やっぱりスマイスのエピソードって最高。

 

【ショップページまとめ】

 ひとつでも何かよいものを残せますように!